いっつも私の事を負かすあいつ。
いつか一泡ふかせてやりたい。
自分はただそれだけ・・・のハズ。

いやぁ・・・さっきはごめんね。
と誤られても仕方が無い。
もう負けてしまったんだから。
「だから、いいって言ってるじゃない!」
そういっても俊一はなんとも浮かない表情をしている。
このこたえ方では誰でもわかる。
まだ怒っているという事。

それもそのはず、隆司のあの目つきが気に食わないのだ。
あの軽くあしらう感じ。
その余裕さ。
いっつもそうだった。
あの顔に見せられてしまったのだ、自分は。
そして他の女たちも。
いつか壊してやりたい。
「まぁまぁ、ごめんって。・・・じゃぁさ、ジュースおごるから。」
「えっ・・・いいって。そんなの。それほどのことじゃないでしょ!!」

それにくらべて、佐伯俊一はずいぶんと優しい。
その証拠が生徒会長という地位だった。
彼は成績優秀、容姿端麗。
女子からも人気があった。
女子の人気も成績も隆司と同じくらいだった。

「佐伯君は優しいなぁ・・・そんな気にしないでよ!ただの暇つぶしだから。」
そっか、ならよかった。
と俊一は安心した表情になる。
隆司が欲求不満解消なら俊一は和み形といえるだろう。
「仲いいの?」
「ん?」
思わぬ質問だった。
なんてこたえればいいんだろう?
「芦野と。」
あっ、あぁ、芦野くんね。
わざと知らないふり。
上出来、自分。
「たまたま。だって勝手にテニスコートで打ってるんだもん。」
本当は仲・・・よくも無い。
そっか。
そういってこの会話は終わった。
どうやら絵梨の演技は俊一を満足させたらしい。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「はぁ・・・」
「何よ・・・ため息なんかついちゃって。」
部活のあとの恒例のスターバックス。
2人だけで反省会のようなものを開く。
「そんなに打てなかったのが悲しいの?」
「違うの・・・うん。きっと。」
はぁ?
何を言ってるんだこの子は・・・
「どうしたの?」
「・・・・・・」
佳穂を伺いながらも絵梨はキャラメルマキアートとすする。
佳穂は何も入っていないグラスを無意味に混ぜているだけだった。
おかしい。
いつも以上におかしい。
なにか悪い事でもしたか?
そもそもの原因はわたしなんだろうか?
そんな思いをめぐらしていた時だった。




「佳穂は芦野君に恋をしたのかもしれません。」




ズルルルルルルルルル・・・・
何を言い出すかと思えば・・・
「芦野ォ!?」
「・・・うん。」
相変わらず佳穂は無意味にグラスを混ぜていた。

「だって・・・あんなやつ!?」
「なんかね、テニスしてるところがかっこよかったの。」
今まで芦野君をカッコイイって言ってた子、馬鹿にしてたけど・・・
そこで佳穂の言葉はとぎれ、かき混ぜるのが早くなった。

「やめておきなよ・・・芦野なんて・・・」

その言葉にはもちろん、あいつがプレイボーイだから。
大切な親友を心配して。
でも絵梨自信、かすかに芽生えている他の気持ちに気付いていなかった。






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