あたしたちは何のために体を重ねているんだろう。
ただの憂さ晴らし?
「最近呼び出しが頻繁ね。何か合った?」
「いいだろ、別に。」
絵梨はシャワーを浴び、冷蔵庫の中を覗いている。
隆司の家の冷蔵庫の中にはミネラルウォーターしかなかった。
「もー・・・お茶くらい置いておいてよね。」
ペットボトルをつかみ、バシンと音を立ててドアを閉める。
そしてソファーに座り込む。
隆司は相変わらずベットの上でゴロゴロとしている。
絵梨は一口飲んで言った。
「そうそう、質問の答え聞いてない。」
「なんか問題あるか?」
「問題っていうか・・・あ、ちょっと!!」
ミネラルウォーターを飲んでいる絵梨の頭の上からバスタオルをとりシャワー室へ向かう。
「俺もシャワー浴びるから。」
はぐらかされた絵梨は腹を立て、隆司の後姿を見る。
ねぇーとソファーをバシバシ叩いても全く気にしないでドアを閉める。
「・・・じゃぁ、あたしも帰るからねー!」
大声で叫んでも反応はなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「さぁーてと、部活か!」
「って言っても、今日は反省会よ。」
そうだけどさぁ・・・とぼやき佳穂は教科書を抱えてロッカーへ向かう。
「あーあ。反省会なんてやめてさぁ、さっさと打とうよ!」
「そんなこといわないの。佳穂は反省するところ沢山あるでしょ。」
「うぅ・・・わかってるよ。そんなこと!!」
座れーホームルームはじめるぞー。
先生の声がしてガヤガヤと席に着く。
「じゃ・ぁ・さ。始まるまで打とうよ!!」
礼をした後、佳穂がいきなり絵梨に言った。
「"じゃぁさ"ってどこから"じゃぁさ"に繋がったのよ。」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!絵梨今日掃除無いでしょ?私も無いから、部活始まるまで打とう!」
佳穂のそのしつこさに負け、2人はコートに向かった。
そこには意外な人がいた。
「ねぇ・・・芦野がいる。」
「え?芦野?」
誰もいないはずのコートからはボールの跳ね返る音がした。
絵梨はわざと音を立ててコートのドアを開けた。
芦野隆司がボールをキャッチして2人を見る。
「部外者は立ち入り禁止なんですけど。」
「あぁ、わりぃ。暇だったもんで。」
「暇って・・・だったら打ってく?」
「ちょっと!絵梨、いいの?」
佳穂は驚いた顔をして聞いた。
「いいじゃない。じゃぁ、佳穂相手してもらえば?暇なんでしょ?芦野君。」
「まぁ。」
「いや・・・あたしは・・・」
「じゃ、いくよ。」
パコーン。
パコーン。
乾いた音がコートに響く。
2人はただ無言で打ち返していた。
ただ、ただ、ただ。
それは永遠に続くかのようにラリーは途切れなかった。
そしてそのラリーを切る物はまたもや意外な人だった。
「あ・れ。」
ギィ。
その音に絵梨が気をとられた瞬間だった。
パコーン。
「あ。」
「あ。」
絵梨の頬をボールがかすっていった。
「うわ。試合中だった?ごめん。」
「佐伯君・・・もーーー!」
「残念。俺の勝ち。」
「どーしていつも勝てないのよ!」
と怒鳴っている絵梨を尻目に隆司は軽くあしらっている。
そんな2人を佐伯俊一と佳穂は物珍しそうに見ていた。
事実、珍しいものである。
学校内では。
「久留宮、あの2人って仲いいの?」
「知らない。で、なんか用?」
「いや、生徒会のことで。」
「だってー。絵梨、聞いてる?」
何!?と相変わらず怒鳴りあいの最中らしく、
すごい見幕で俊一と佳穂を見る。
じゃぁ、俺は帰るわ。生徒会じゃお邪魔みたいだし。
そういって俊一の脇を通り帰っていった。
俊一の視線に気付いた者は隆司だけだった。
そして絵梨の「いつも勝てない」という言葉に気付いたのも俊一だけだった。
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